先日、食品ニューテクノロジー研究会にて、講演を行いました。
タイトルは
「機能性食品に携わるひとに知ってほしい栄養疫学の重要性」。
聴衆は、食品企業の方がほとんどでした。
機能性食品の開発に携わっている方も多かったのかな、と思います。
講演では、このWebサイトで発信している、
疫学特有の現象である「平均への回帰」の説明もしました。
中には、栄養疫学という分野を初めて知ったという感想を
寄せてくださった方もいらっしゃいました。
一方で、栄養疫学の考え方を知れば知るほど、
機能性食品をどのように利益に結び付けていけばよいか分からなくなる、という
悩みを言っておられた方もいらっしゃいました。
そんな思いになってしまった理由のひとつは、
こちらのスライド(図1)の説明をしたことかなと思います。
この図は、栄養疫学の教科書でもある
「わかりやすいEBNと栄養疫学」(文献1)から抜粋・改変したものです。
この図で示しているのは以下のようなことです。
機能性食品研究の出発点は、細胞を用いた実験研究です。
実験研究でメカニズムが推測できるようになります。
そして、その実験研究で分かったことをヒトで確かめるのが
疫学研究の役割です。
疫学研究は、個々の実験研究を「ふるい」で選り分ける
そんな役割があることを示しています。
まずは、ヒトでの効果が大きいか、小さいか、という視点で
ふるいにかけます。
多くの機能性食品の成分の効果は、薬などに比べるとはるかに小さいですから、
「小さな効果」のほうに選り分けられます。
さらにその成分は、日常の食事で頻繁に、そして
効果が得られる十分な量を食べられるか、という視点で
ふるいにかけます。
多くの機能性食品の成分は、ある一部の食品にごく少量含まれているだけですから、
「特殊で少ない」ほうに選り分けられます。
そのような成分を社会で活用しようとしても
到達する結論は「意味は乏しい」となる、
そういう説明ができる図です。
もうひとつ、
機能性食品の効果を科学的根拠に基づいて説明するのは難しい、と印象付けたのは
こちらのスライド(図2)の影響もありそうです。
この図は「検証!がんと健康食品 健康情報の見分け方」(文献2)からの抜粋です。
この図は、食を含む健康情報が
「無作為割付臨床試験」などの因果関係が明らかになるデザインの研究で、
しかもその結果が複数の研究結果で支持されているときに初めて
結果をひとまず受け入れてもよいかもしれないことを示しています。
このような考え方に基づくと、
健康効果の高い機能性成分を探索・発見し、
その成分を用いた臨床試験を複数実施するなんて、
一般の食品企業では、ほとんど不可能なことですよね。
けれども、同じくヒトの健康に寄与する成分として扱われている薬は
そのような過程を経て販売されます。
そのためにかかる費用は莫大でしょうが、
機能性食品も、効果のあるものを開発しようとすれば、
それと同等の費用をかける必要があるはずです。
食品だから薬より簡単な検証でよいというわけにはいきません。
講演のあとの質疑応答でいただいた
「機能性食品をどのように利益に結び付けていけばよいか」という質問に対して、
講演の場では、
「機能性で利益を上げることは考えず、研究は学の分野に任せては」
という程度の返事に留めてしまいました。
けれども、もう少し踏み込んで、
・機能性食品を開発するためには、製薬会社並みのお金が必要です。
・それだけのお金をかけても、開発できるかは分かりません。
・食品企業は「機能性があるから」ではなく「おいしいから売る」ことで利益を生みだすことを優先してはいかがでしょうか。
という私の立場での考えを伝えたほうがよかったのかな、とも思います。
そうは言っても、
私は食品企業や機能性食品に携わる人たちと敵対する気持ちはなくて、
一緒に社会の健康づくりを進めていければと思っています。
そのために何ができるのか、
考える機会をいただいた講演となりました。
ひとまずは、最近食品業界から依頼を頂き始めた
疫学研究論文の読み解きのお手伝いなどを通して、
栄養疫学の重要性などを伝えていければと思っています。
【参考文献】
1.佐々木敏. わかりやすいEBNと栄養疫学. 同文書院. 2005.
2.坪野吉孝. 検証!がんと健康食品 健康情報の見分け方. 河出書房新社. 2005.
信頼できる食情報を見きわめる力をつける無料メールマガジン配信中!