先日、研究の相談に来られたクライアントさんから、
ある集団での、ある食品の、習慣的な摂取量を調査したいと言われました。
けれども、栄養疫学の分野では、
「食事摂取量の絶対量は自己申告の食事調査では調べられない」
と考えるのが、一般的です。
食事調査の方法は色々あります。
例えば、食べた食材をすべて秤ではかって
食材名と重さを記録してもらう、食事記録法や、
過去の一定期間に食べた食材の頻度を質問票でたずねる
食物摂取頻度法などがあります。
これらの自己申告による食事調査で食事を調べると、
必ず誤差が生じてしまいます。
それを示したのが、図1(文献1)です。
この図の縦軸に注目してください。
縦軸の値は、それぞれの研究でエネルギー摂取量を調べたとき、
正確なエネルギー摂取量(化学分析で調べたエネルギー消費量)に比べて、
食事調査で調べたエネルギー摂取量がどれくらい正確かを示しています。
100%であれば、食事調査は正確です。
80%であれば、実際に食べた分の80%しか申告できておらず、
少なく申告していることを示しています。
図中の丸や三角の印は、
ひとつひとつの研究結果を示しています。
そして、多くの研究が、
100%の赤い線よりも下にプロットされていることが分かります。
自己申告の食事調査で調べたエネルギー摂取量は、
多くの場合、食べたものを忘れたり、記録漏れを起こしたりして、
少なめに見積もられてしまうようです。
この図からはさらに、2つの面白い特徴も見えてきます。
ひとつは横軸の値に注目してください。
右に行くほど肥満度が高くなります。
そして、エネルギー摂取量の正確度は、
青い線のように右下がりになっています。
肥満の人ほど少なめに申告する度合いが大きくなるのです!
理由はわかりませんが、
太っている人ほど、食べたことを忘れてしまうのか、
食べなかったことにしたいと思う心理が働くのかもしれません。
もうひとつは、図中の●印の調査法の結果を見てください。
この方法の結果だけ、すべて100%に近い値を示しています。
実はこの方法だけ、自己申告ではなく、
第三者が観察した方法です。
人は自分が食べたものは忘れてしまうのに、
他人が食べたものに対しては厳しく正確にチェックすることが
できるようです(笑)。
このような、自己申告の食事調査で生じる誤差を
栄養疫学では「申告誤差」と呼びます。
少なめに申告している場合は「過小申告」、
多めに申告している場合は「過大申告」です。
この申告誤差のために、
研究では、食事調査で調べた摂取量のデータをそのまま使うことはせず、
誤差を補正して使います。
それでも、摂取量の絶対値はわからないため
相対値として使います。
食事指導の場面で、太っている対象者さんが
「あまり食べていません」といって食事記録を提出してきても、
過小申告という現象があることを考えると、
仕方のないことだと言えるかもしれません。
その記録に記載されていない過小申告分を想像して、
実際に食べている食事をさらに聞き取り、
真実の食習慣に迫る必要がありそうです。
食事調査の結果「摂取量は○○gだった、少なくて問題だ!」
という結論を示した情報を見た場合には、
申告誤差の影響はどう処理したのかな、と
気にかけてみてください。
処理していなければ、
「過小申告があるから、実際の摂取量はその値よりも多いかもね」
と捉えておくとよいと思います。
栄養疫学で重要な、申告誤差の紹介でした。
【参考文献】
- 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2015年版. 2014.
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