先日、健診業務に携わる看護師さんから、
こんなエピソードを聞きました。
最近、昨年までは血清総コレステロール値が正常値だったのに、
今年になって急に高くなった、という患者さんが
何人も続けざまに健診に来られる、ということに遭遇したそうです。
そして、その患者さんたちは
皆、同じ職場に勤められているとのこと。
職場で健康に関する情報提供を受けたのか尋ねたところ、
バターコーヒーが健康に良いとの講演があり、
みなさんそれを飲み始めていたのだそうです。
バターは飽和脂肪酸が豊富に含まれる食品です。
そして、飽和脂肪酸は、血清総コレステロール濃度と
正の関連を示すことが知られています。
研究で計算式も示されています。
計算式はいくつか示されていますが、
たとえばこんな式です。
Keysの式(文献1):
△血清総コレステロール(mg/dL)=2.7×(△S – △P÷2)+1.5×△√C
△S: 飽和脂肪酸摂取量の変化量(%エネルギー)
△P: 多価不飽和脂肪酸摂取量の変化量(%エネルギー)
△√C: コレステロール摂取量の変化量(mg/1000 kcal)
この式から分かるように、
飽和脂肪酸の摂取量が増えると、
血清総コレステロール濃度も上昇します。
健診に来られたこの患者さんたちは、
皆、バターコーヒーを飲み始めて、
その後血清総コレステロールの値が悪くなっているということですから、
飽和脂肪酸を余分に摂取してしまっていることが考えられますし、
ひとまずバターコーヒーはやめて経過を見たほうがよさそうですね。
それでは、私が「バターコーヒーは健康に悪い!」と言いたいか、というと
そうではありません。
もし、普段、3度の食事をかなり多めに摂取していて、
朝はバターをたっぷり塗ったクロワッサンにベーコンエッグ、
牛乳をたっぷり入れたミルクティーといったメニューを
続けて摂っている人が
「朝食をバターコーヒーだけにする」という食事の選択をしたら…
飽和脂肪酸の摂取量はむしろ減少して、
血清総コレステロールは低下する可能性が大きいです。
もし、普段、朝食はほとんど食べていない人が
「朝食をバターコーヒーだけにする」という食事の選択をしたら…
飽和脂肪酸の摂取量は増加して、
血清総コレステロールが上昇する可能性が大きいです。
朝食を同じように変更しても、
その人たちの元の食習慣の違いによって
健康状態が改善することもあれば、
悪化することもあるということですね。
つまり、どんな人でも健康になれるという食事のアドバイスは存在しないし、
ある食品自体が「健康に良い」か「悪い」かといったことは
摂取する人の食習慣を含む、様々な状況によって異なる、
ということをお伝えしたいのです。
けれども、世の中は、
ある人たちに効果があったからという理由で
どんな人でも健康になれると謳った
「魔法の食品」の情報であふれています。
そして、それを疑いもなく信じてしまうことが
また問題だな、と思います。
魔法の食品情報に遭遇したときには、
・ある人たちだけに見られる特別な特徴のせいではないか
・その食品を食べることによって、逆に食べなくなったものが影響していないか
・その食品を食べること以外に変化した生活習慣が影響していないか
など、考えておきたいことがたくさんあります。
そのようなことを考えず、情報を鵜呑みにした結果
悪影響が出るということもある、という現実を
今回のバターコーヒーの例で見た気がします。
【参考文献】
- Keys A et al. Metabolism 1965; 14: 776-87.
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