食事摂取基準(文献1)のエネルギーの項には
推定エネルギー必要量が参考値として示されています。
この値、
基礎代謝基準値×参照体重×身体活動レベル
で、算出されています。
あまり勉強していなかったころ、
この算出方法って、違和感があったんですよね。
本文中には、
「肥満者で基礎代謝基準値を用いると、基礎代謝量を過大に評価する。
逆に、やせの場合は基礎代謝量を過小評価する。」
とあったので、
その都度対象者さんの体重に合わせて
計算し直して使ったとしても、
肥満者の人もやせの人も同じ基礎代謝基準値を使っては
参考にならないと思ったんです。
そして感覚的に、
肥満の人は、そのエネルギー量ほども必要ないと思ったし、
やせの人は、そのエネルギー量よりも摂取したほうがよさそうだと思いました。
そう感覚的に「思った」ことを
指導教官で、食事摂取基準策定検討会委員の
佐々木敏先生に伝えたことがあります。
そうしたら、見事に怒られましたね…。
研究者たるもの、論文を根拠に意見を主張しなくてはならない。
「思う」で意見を述べてはいけない。
そう言われて。
佐々木先生の主張は、
Evidence Based Nutrition(EBN;根拠に基づく栄養学)を
遂行する栄養疫学者として
肝に銘じておかなければならないことだと
今では常に心に留めています。
食事摂取基準は、
その作成時に入手可能な、科学的根拠すべてを収集し、
それに基づいて作成されたものですから、
まずは、この内容を最善とし、
さらに、ここに書かれていないことは、
まだわからない、今後の課題として、
取り扱う必要があるのです。
勝手に解釈を加えることは、
研究者として、許されないことです。
とはいえ、栄養業務の現場では、
書かれていない状況にも
書かれていることを参考にしながら、
対処していかなければならないと思います。
たとえば、肥満の人の摂取しているエネルギー量は
推定エネルギー必要量の式に基づいて算出したとしても
大きめに算出されるとのことですから、
それを考慮に入れつつ、
実際に摂取しているエネルギー量は
食事アセスメントで評価する必要がありそうです。
食事アセスメントでは、過小申告になっているでしょうから、
これと推定式からの算出結果を比べ、
そして、普段の食事内容をたずねた結果
いただいたお返事などから垣間見える食習慣の様子も合わせて、
どの程度のエネルギー量を摂取しているのか
推定する必要がありそうです。
栄養業務の現場でのこのような工夫は
必要であることは重々承知のうえで、
私自身は栄養疫学研究者として、
師の教えに従い、
根拠のない主張はしないように、気をつけながら
発信しているつもりですし、
これからもそのようにしてきたいと思います。
そんな科学的根拠に基づいた食情報を解釈できるようになるためのコツは
こちらのメールマガジンでご紹介しています。
参考文献
1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.