今年度、いくつかの
共同研究・調査のお手伝いをしています。
研究者の方だけではなく、
行政の方の要望も聞きながら
プロジェクトを遂行する場面が
多々あります。
そんな中である研究者の先生が
「行政の担当者の方から
『とにかくまず介入研究をやってください』
と言われて、困っている」
というお話をされていました。
「研究には順序がある」
「介入研究は最後」
「丁寧な方法論の研究と記述研究が大切」
これ、真の研究者にとっては
暗黙の了解(!)です。
私の師である佐々木敏先生も、
東京栄養疫学勉強会などの
無料でも学べる講義の場面で
何度もおっしゃっています。
ですが、実務に関わる方には
なかなか理解されないようです。
なぜ介入研究から始めてはいけないのか、
佐々木先生のスライドを活用して
説明してみます。
まず、図1をみてください。
研究には、
とてもざっくり大まかにわけて
4種類があることが
示されています。
それぞれの研究の種類の
内容を説明しますと
介入の研究とは
対象者に食品を食べてもらうなどの介入をして
健康状態の改善などが現れるかを
調べる研究です。
その結果によって
指導法や治療法が確立します。
関連の研究とは
日常生活を送っている人の
すでに食べているものと
健康状態などを調べる研究です。
ここから、
どんなものを食べている人が
健康か、病気になりやすいか、といった
健康状態という結果を引き起こすための
原因が探索できてきます。
実態の把握の研究とは
いわゆる記述研究と言われる研究です。
日本人全体では、
肥満の人が何人(何%)くらいいるか、
どんな食事を摂取しているのか、
といったことが明らかになります。
このような結果があって、初めて、
太っている人が多いから
優先的に研究を行って
対策をたてなければならない問題である、
などといった具合に、
問題として扱うべきか、
対策が急がれるのか、
そもそも研究をすべきか、といったことが
明らかになります。
そして、調査法や測定法の研究とは
食事や健康の度合いを
どうはかるか
その方法を作り出す研究です。
研究・調査をするとき
「どのようにはかるのか」が決まっていなければ
一番大切な測定ができません。
ということは、
研究も調査もできないということになります。
調査法、測定法が存在してこそ
すべての研究は実施が可能です。
研究分野によっては
それぞれの研究の中でさらに
研究の種類が細分化されますが
おおまかには
この4種類に分類できます。
さて、これらの4種類の研究には
順序があります!
研究の最終目的は、たとえば、
何かを食べて病気が防げる、
というような
指導法・治療法を確立させることです。
これによって、
たくさんの人の健康状態を
改善できるからです。
けれども、その目的のために
最初から介入研究を実施できるでしょうか?
まずは、
このように介入すると、健康状態が改善する、という
見込みが必要です。
それがなければ、どう介入するかが決められず、
介入研究が実施できません。
介入研究の前には
原因を探索することが
必要になってきます。
そのため、関連の研究を先に行って、
原因として挙げられるものは何なのか、
たとえば、
何をどのくらい食べると改善する可能性があるのか
といったことを
あらかじめ明らかにしておく必要があります。
そこで、関連の研究を行おうとすると、
その健康問題を扱うのは妥当なのか、
そして、その介入を行うのは妥当なのかという
そもそも論が浮上します。
治療したいと思っていた病気の患者さんは
実は日本にはいないかもしれません。
その場合、研究を進める意味はありませんし、
関連の研究をしたくても、
そもそも対象者がいない、ということになります。
または、最終的に
介入して食べてほしいと思っているものが
すでに多くの人が十分食べているものだとしたら、
介入する意味はありません。
そこで、介入や関連の研究の前に
記述研究で実態の把握をすることが
必要になります。
それでは、記述研究をしようとしたとき、
その病気にかかっているかどうかは
どのように判断するでしょうか。
自己申告ですか?
お医者さんの判断ですか?
それとも体のどこかを調べて、
数値化できるのでしょうか。
または、食事摂取量は
どう測定するとよいのでしょうか。
候補となる測定法で、
知りたい栄養素の摂取量は
調べられるのでしょうか。
新しい研究を立ち上げたいと思ったとき、
その状態を測定する方法が
確立していないことも多いです。
まずは、この測定法・調査法の確立が
必要になります。
そういうわけで、
研究の順序は
測定法・調査法の確立
↓
記述研究
↓
関連の探索
↓
介入による
指導法・治療法の確立
という流れになるのです。
図1のように
研究のブロックは下から積み、
土台が出来上がってから
その上を積み進めるべきなのです。
ところが、実際の業務の現場では
図2のように
十分な研究結果がない、穴だらけのまま
存在しないブロックの上にブロックが積まれたり
十分な量存在しないブロックの上に
大量のブロックが積まれたりして
結果的に、
十分な効果・実施の意味が
見いだせない介入研究の数が
多くなっているのです。
この点を、実務に関わる多くの人に
自覚していただきたいなと
思います。
もちろん、信頼できる食情報の判断には
最終的には介入研究の存在は必要です!
それがどういうことなのか、
気になる方は、こちらのメールマガジンで
学んでみてくださいね。